MHJ Online

2018年1月23日 / 文筆家・時計ジャーナリスト 白州太朗
何も知らずにアンティーク時計に 手を出してはいけない

いま、ファッションにおいても腕時計においても、50~60年代のデザインにインスパイアされたものがリバイバルしている。腕時計においてこの時代は、手巻き時計が完成を迎えたころ。なかでもよりシンプルでクラシカルな印象の時計がモチーフに用いられることが多いようだ。しかしながら、シンプルであるがゆえ、一見すると当時の時計と現代のリバイバルピースの何が違うのか分からない。当然、同じような時計ならばアンティークの方が値段が安いことが多いため、何も知らなければそちらを購入する人が大半だろう。デザインもパッと見かわいく、オシャレに感じるかもしれない。しかし、だ。本稿では2回にわたって、アンティークを買いたい気持ちをグッと抑え、リバイバルした現行モデルを検討すべき理由を論じてみる。

ミッシェル・エルブランでいうと、2017年のバーゼルワールドで発表されたインスピレーション1947は、その名の通り1947~50年当時の自社モデルに着想を得た時計だ。アンティークと化した当時の時計と並べれば、やはり大きな違いは分からない。まずは外見上の違いを解き明かそう。

インスピレーション1947(以下インスピと略す)は、時分針と秒針のみで構成される非常にオーソドックスな3針時計(さんしんどけい)だ。このジャンルで最も意識すべきはサイズ。時計のデザインを決定づける要素がもともと少ない種類がゆえに、ケースサイズの大小が雰囲気を決定的に左右する。アンティークで見つかるようなものは大きくても33~36mmくらいが主流で、現在ではレディースとしてもラインナップされうるサイズである。もしアナタがこれを選んだ場合、周囲から見るとよっぽどの時計マニアか昔買った時計をつけ続けるオジさん、というのが大方の印象と思って間違いない。いま、この位小さなサイズ感の時計をオシャレにこなすのは相当な上級者でないと難しいのだ。

インスピは程よい大きさの40mmで小さすぎず大きすぎもしない。デザインはアーカイブに着想を得たものながらも、サイズ感からかモダンな印象を与えてくれる。白、ブルー、スレートグレーと幅広いカラバリがあるのも現代的で、好みや服装に合わせた色を選べば問題ないだろう。(筆者は絶妙な色合いで目を惹くグレーがイチオシ)

すべて21万8000円+税
SPEC SSケース、サイズ直径40mm、レザーストラップ、 手巻き、3気圧防水、シースルーバック

インスピに限らず、腕時計はシンプルなものほどアップデートされたものでないと時代感がモロに出てしまい、思わぬオジサン臭を醸し出してしまうものだ。アナタがどんな時計でもこなせるようなスタイルが確立するまでは、このあたりに気を付けることをオススメする。

プロフィール

白州太朗
文筆家。時計ジャーナリスト。腕時計専門誌の編集者出身で、バーゼルワールドやSIHHをはじめ、スイス、フランス、ドイツ、イタリアといった高級腕時計の故郷で取材を重ねる。腕時計とシャツ、アクセサリーとの合わせを追求する袖元研究家でもある。好物はしらす丼。