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2018年1月30日 / 文筆家・時計ジャーナリスト 白州太朗
デザインのイメージは古典的で 中身は最新という時計が最良の選択

前回はインスピレーション1947を例に、サイズ感の違いを通してアンティーク時計は上級者のアイテムであることをお伝えした。今回は、中身の機械に注目をして古いものよりもアップデートされた時計を薦めてみたい。

まず、一般的な機械式時計はクルマと同じように、定期的なメンテナンスを必要とする。オーバーホールと言われるこの作業は、時計内部の歯車同士を効率よく動かすように用いられる潤滑油の交換が主な内容だ。油は古くなって劣化すると乾いたり、時計の中の微量のゴミを含み出したりして機械に悪影響を及ぼす。これをキレイに洗い、再度注油するというのがざっくりとした工程で、コンスタントにオーバーホールを施して初めて機械式時計は半永久的に使用できるのだ。アンティーク時計の場合、繰り返しメンテナンスされていないものも多く、外見はキレイな状態だが中身はボロボロで思わぬ修理が必要になるケースもある。それならばインスピのようにヘリテージがアップデートされた最新の時計を買うのが安心である。

“裏側からは、しっかり仕上げが施された手巻きムーブメントが堪能できる”

さらに、アンティーク時計はユーザーが中身を見て判断することができず、販売店側でも満足な整備がされてきた個体かどうかを見極めるのが難しい。(一部、それを実践する非常に優秀なアンティークショップはもちろんある) 時計を人間の一生にたとえたとき、20〜30代の働き盛りにカラダのケア(=整備、オーバーホール)を怠ったものはその後50、60歳となるにつれ、いつガタがきてもおかしくないという状況になる。病気がちになるかもしれないし、大病をして臓器移植を受ける必要が出る(パーツ交換)なんてこともある。それでもヒトの世界は医療が発達し続けているが、時計の場合は古すぎる時計はパーツ自体も再現することが難しく壊れて止まってしまった瞬間に一生を終えることになりかねない。アンティーク市場でも50~60年代の時計は長らく人気が高かったため、いまでは優良な固体を探すことがそもそも難しい状況なので、ユーザーは相応の覚悟を持って購入を決める必要があるのだ。

Ref.1947/15MA
21万8000円+税

SPEC SSケース、サイズ直径40mm、レザーストラップ、 手巻き、3気圧防水、シースルーバック

さて、機械式時計はクルマなどと同様に日々進化しているため機械に使われる素材も高性能化している。素材パーツは摩耗しにくくなったり、油はより劣化しにくくなったりと見えない部分に手がかけられているのだ。インスピレーション1947の場合も、大手ムーブメントメーカーであるセリタ社の手巻きムーブメントを採用しており、抜かりなく中身のアップデートが図られている。自動巻き時計よりメンテナンスがしやすく、しかも巻き上げローターを持たない構造により内部の機械もしっかりと見ることができる。インスピを実際に手に取る機会があるならば、シースルーバックから眺めることのできる手巻きムーブメントの鼓動に酔いしれて欲しい。

プロフィール

白州太朗
文筆家。時計ジャーナリスト。腕時計専門誌の編集者出身で、バーゼルワールドやSIHHをはじめ、スイス、フランス、ドイツ、イタリアといった高級腕時計の故郷で取材を重ねる。腕時計とシャツ、アクセサリーとの合わせを追求する袖元研究家でもある。好物はしらす丼。