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2018年5月8日 / 文筆家・時計ジャーナリスト 白州太朗
ニューポートはリーバイス・501のようなレガシーピースもなりうるか

世界最大の時計・宝飾フェアであるバーゼルワールドが今年も開催され、スイス第3の都市であるバーゼルは世界各国からの来訪者で賑わった。
いま、バーゼルワールドと検索したとすると、あまり明るいニュースは抽出されてこないだろう。出展ブランドが激減したとか、時計価格の高騰とかユーザーからするとネガティヴな情報が多い。不肖、白洲も毎年バーゼルに出かけているので、盛り上がりのうねりのようなものは感じる。中国バブルが爆騰したころはそれは凄まじい賑わいだった。
が、我々日本人のユーザーからすれば、いまのバーゼルワールドにも魅力的な商品は多くある。突拍子も無いコンセプトを持った時計ばかりが毎年のように発表されていた頃に比べて正直こなれたものが多く、手にするとブランドが本気で作り込んだ商品だと分かるものばかりだ。
新作時計のトレンドを挙げるとすれば、各社代表的なコレクションのレガシー化に取り組んでいるということだ。つまり、過去の名作を紐解き、自社の基幹モデルの価値を確固たるものとする狙いがある。70周年を迎えたオメガのシーマスターやティソのバナナウォッチ、国産ではG-SHOCKが35周年を迎え、初代機である角型モデル5000系がSS化されるなど個人的にも刺さった時計が登場している。

“ニューポート30周年の限定。ラバーはウブロなどへも供給するサプライヤーへ発注している”(2018年7月発売予定)

ミッシェル・エルブランは30周年の節目に、基幹コレクションのニューポートを一新。クラシカルな時計を得意としている同社が、一転モダンでスポーティな表現をしたことに驚かされた。5点のビスがあしらわれた黒色のケースは非常にモダンで、ラバーバンドとの相性が良く今っぽい表情だ。ダイアルには、通常の織り目でなく一方向のみに筋目が入るカーボンを用いた。
幸運にも現地でデザイナーのマチュー氏に話を聞く機会を得たが、ミッシェル・エルブランにこれまでなかった時計を生み出すべく、精力的に開発をしているとのことだ。彼らは優れたサプライヤーを多く抱えるため、今回のカーボンダイアルのようなユニークな素材を選択することができる。また、搭載するムーブメントも、クロノグラフモデルはセリタ社から先行的に供給された最新機だという。社長のピエール・ミッシェル・エルブラン氏はセリタ社のことをビッグパートナーと呼び、コストパフォーマンスの高い製品を生み出すという自社の命題を達成するために欠かせない相棒と語った。
これまで、バーチ材の香りが漂うようなクラシックヨットのようだったミッシェル・エルブランが、アメリカズカップを戦う先進のヨットかのように進化を遂げようとしている。”ニュー”ニューポートは、かた田舎の作業着でしかなかったリーバイスにおいての501のような存在になりうるのか。新しいニューポートを見て感じて欲しい。

プロフィール

白州太朗
文筆家。時計ジャーナリスト。腕時計専門誌の編集者出身で、バーゼルワールドやSIHHをはじめ、スイス、フランス、ドイツ、イタリアといった高級腕時計の故郷で取材を重ねる。腕時計とシャツ、アクセサリーとの合わせを追求する袖元研究家でもある。好物はしらす丼。