ミッシェル・エルブラン ジャーナル

春の訪れは甘い香り

フランス北西部・ブルターニュ地方への鉄道の発着駅である、パリ14区のモンパルナス駅。この駅の周辺にはブルターニュ地方が発祥の地である”クレープ”の専門店「Crêperie(クレープリー)」が軒を連ねています。日本でも大人気のクレープですが、フランスでは「クレープの日」があることをご存知ですか?
2月3日は「節分」です。節分とは「季節を分ける」=「季節の変わり目」を意味しており、暦の上で春が始まる日「立春(2月4日)」を祝うイベントとして、日本では豆まきをする習慣がありますね。1月の中旬頃からスーパーなどでは鬼のお面や豆まき用の大豆が売られ始めますが、それを見ると子供の頃に鬼に扮したお父さんの背中めがけて、一生懸命に豆を投げた懐かしく楽しい記憶がよみがえります。

ところ変わってフランスでは節分に豆まきをする習慣が無い代わりに、ローマ時代を起源とした、キリスト教に基づいて生まれた習慣が今でも残っています。イエス・キリストの誕生日であるクリスマスから40日後にあたる2月2日は、聖母マリアとヨセフ(マリアの婚約者であり、イエス・キリストの養父だそうです)が初めてユダヤ教の寺院でお清めを受けた日で、この日を「La Chandeleur(ラ・シャンドルー)=聖燭祭」と呼びお祝いするようになったそうです。「シャンドルーの日にクレープを食べないとその年の小麦がダメになる」という言い伝えもあり、伝統的にクレープを食べる日として知られています。なぜクレープなのかは諸説あるようですが、一説には「寒くて暗い冬の終わり→春の訪れ→黄金色に輝く太陽」を連想させることから、黄色くて丸いクレープを食べるようになったとも言われています。

フランスでは普段から自宅でクレープを焼いて食べる家庭が多いですが、この日はいつもと違うやり方で焼きます。左手にコインを握り、右手だけでフライパンを持ち、クレープをできるだけ高く上げてひっくり返します。上手にひっくり返せれば、その年は幸運に恵まれると言われているのです。「余の辞書に不可能の文字はない」と言ってのけた、かの皇帝ナポレオン・ボナパルトもこのクレープ占いを行い、1812年は上手にひっくり返すことに失敗してしまったそう。ロシア征服を目論んでいたナポレオンは、59万1000の軍を率いて同年6月にモスクワ遠征を行いましたが、食料不足と冬の到来を恐れて冬前にはモスクワからの撤退を余儀なくされた、というエピソードが語り伝えられています。もしその年にナポレオンがクレープを上手にひっくり返せていたならば、歴史は変わっていたかもしれませんね!また、女性がクレープをうまくひっくり返すことができたら良いお嫁さんになれるという言い伝えもあるそう…。

この記事を書いている途中でなんだか私もクレープが食べたくなり、クレープ専用の薄いフライパンを購入しました。ちょっと奮発してフランス産のバターやスイス産のグリュイエールチーズ、ハムやマッシュルーム(フランス語では”シャンピニョン・ド・パリ”と呼びます)、デザート用クレープのチョコレートを用意して、週末のクレープランチを楽しむことに。クレープ占いにも挑戦しようとしましたが、直径28cmのフライパン自体も薄いとは言え軽くはないので、ひっくり返すどころか片手で持つことも難しく…。(確かにこのフライパンを片手で持ち、ひょいっと上手にクレープをひっくり返すことができる女性は、頼りがいのあるパワフルなお母さんになりそうです!そんなお嫁さんをお探しの男性は、一度彼女にクレープをひっくり返してもらえば、その彼女が結婚すべき相手かどうか分かるかもしれませんね!)出来上がった黄金色のクレープはモチモチととても美味しく、甘いバターの香りが部屋中にただよう週末の午後、クレープ占いは出来なかったけれど今年も良いことがありそうな、なんだか幸せな気分になれました。
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