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2018年1月9日 / 文筆家・時計ジャーナリスト 白州太朗
オトコを磨くのは簡単ではないから せめて中身の磨かれた腕時計で手元を飾る

オトコが自分を飾るとき、唯一のアクセサリは腕時計であることはよく言われている。高級時計に興味を持つ人は、少なからず自分を良く見せたい、モテたい、という思いがあるものだが、それは内面が容易に磨くことができないことの裏返しだ。しっかりと身につけるものに気を遣って見栄えを良くしたところで、”ツマラナイオトコ”と見抜かれるあの恐怖を、僕らは本能的に知っているのだ。地道に中身を磨いた男は眩しいくらいに輝く。
腕時計の世界でもそれは同様で、中身を磨くことは特別な価値を持つ。時計の中身というと歯車やゼンマイなどのパーツが組み合わさったものだが、普通それを目にすることは少ない。それがゆえに、近年時計業界では、”スケルトン”といって文字盤をなくして、時計の中身を普通に眺めることができるデザインが流行している。時計ブランドが威信をかけて、通常必要のないレベルまで中身を磨き、装飾を加えるのだ。ひと目見れば女性が宝石を眺めてウットリする気持ちが分かるだろう。この装飾はオープンワークと呼ばれ、限られたブランドでは専任の職人によって手間暇を惜しまず仕上げられる。
さて、そんな魅惑の世界を味わうならば、オープンワークとまではいかなくとも、文字盤が”一部オープン”な時計はいかがだろう。フレデリック・コンスタントが手がける”オープンハート”(文字通り時計の心臓部=ハートであるテンプがオープンされている)や、ゼニスのシグネチャーモデルのエル・プリメロ クロノマスターが著名だが、意外な伏兵としてミッシェル・エルブランのニューポート オープンも良い出来だ。

ニューポート オートマティック

Ref.1666/CO21NV
24万8000円(税抜)

SPEC SSケース、サイズ直径40.3mm、レザーストラップ、 自動巻き、10気圧防水、シースルーバック

このコレクションは、特殊な形状のラグやケースにばかり注目しがちだが、オープンにされたテンプブリッジにはしっかりとペルラージュ装飾(うろこ状の模様)が施され、キッチリ大人の作法をわきまえた紳士のような、端正な印象も備えている。一軍時計としてももちろん使える一本であるが、既に仕事用の時計を持っている方々への二本目時計としてオススメしたい。何を隠そう筆者の時計遍歴の二本目も、当時流行の兆しを見せていた“オープン”モデルであった。(ちなみに一本目はスピードマスター)このあたりから、急激に機械式時計の魅力に目覚め、青二才ながらTPOに合わせて時計を着け替えたりし出したのだった。そういう意味で、このニューポートのオープンも時計を替える楽しみを味わわせてくれ、紳士の嗜みの扉を開くことができる一本なのだ。オトコの中身を磨くことにも繋がろう。

さて、個人的にオープンの時計は中の機械をチラ見せするのが魅力であって、それ以外の装飾は華美では興ざめだ。このニューポートは上品なサンレイ加工が放射状に白文字盤上をはしり、インデックスも時分針も主張しないのが好印象。ゴテゴテと着飾るのでなく、潔く中身を見せてしまう姿勢は、筆者のような未熟なオトコにはマネできない潔さを感じる。

明日から潔く生きるのは現実的ではないから、せめてこの時計で装ってから、中身を磨く準備をしてはどうだろうか?

プロフィール

白州太朗
文筆家。時計ジャーナリスト。腕時計専門誌の編集者出身で、バーゼルワールドやSIHHをはじめ、スイス、フランス、ドイツ、イタリアといった高級腕時計の故郷で取材を重ねる。腕時計とシャツ、アクセサリーとの合わせを追求する袖元研究家でもある。好物はしらす丼。